県医師会理事だよりについて

サンデークリニックシナリオ. withコロナ~耳鼻科から~

サンデークリニックの時間です。10月からwithコロナと題して、行政・専門医・県医師会・小児科からのお話をお聞き戴きました。今回で最後となりますが、小児科同様打撃の大きかった耳鼻科からということで、静岡県医師会理事で志太ENTクリニック森耳鼻咽喉科院長:森泰雄先生にお話を伺います。先生は耳鼻咽喉科と言うことで、特に気をつけていらっしゃることはありますか?

耳鼻咽喉科はみみ・はな・のどを正面から近くで診察し処置などをすることが多いですので、耳鼻科医は患者さんから細菌やウイルスを含んだしぶきを浴びやすく、新型コロナウイルスの感染リスクが高いと思われています。日本耳鼻咽喉科学会は3月に「耳鼻咽喉科外来における新型コロナウイルス感染症対策ガイド」を作製し初版を公開しました。この対策ガイドはあくまでコロナウイルス蔓延地での対策法として捉えるべきで、5月に改訂版が出されていますが、未知のウイルスに対するガイドラインですから、医学的根拠はないと明記されています。

なるほどそうなると先生は耳鼻科医としてどう対処されていますか?

当院での発熱外来は蔓延地との行き来や行き来した人との接触の有無を確認し、その対応を決定しています。当院のホームページにも明示してありますが、発熱のある方や蔓延地との行き来や接触のあった方は電話を戴き、対応が決まるまで車の中で待機して戴く時間的動線分離を採用しています。院内には必ずマスクを着用し、玄関と待合室には手指消毒用のアルコールを用意しています。また土足でのウイルス持ち込みを防ぐためにスリッパに履き替えて戴き、後でスリッパは一足ずつ消毒しています。受付窓口はアクリル板で仕切り、非接触型体温計で体温を計ります。待合室では密にならないよう原則一方向に向いて座ってもらいます。

診察は正面から鼻や喉の処置や検査も行いますが、医師の私はN95マスク、フェイスガードとガウンに手袋をして診療しています。診療介助スタッフにはサージカルマスクにフェイスガードとガウンに手袋をしてもらっています。受付はガウンではなくエプロンと少し軽装の時もありました。

先生とスタッフさんでマスクの種類が違いますがいかがでしょう?

N95マスクもサージカルマスクもポリプロピレン不織布と呼ばれる合成ポリマーの細かい網目状の構造をした化学繊維によってフィルターが構成されています。そして直径0.3マイクロメートルの微粒子を95%以上除去できる性能を持つ有機溶剤などの油状物質に対する耐油性を持たない微粒子用マスクです。

N95マスクはマスクと顔の間が隙間なく密着していることを確認するために行われるフィットテストと呼ばれる専門的なチェックを定期的に受けることによって、病原体の侵入を80%~90%防いでくれます。フェイスシールドを付けていますので100%近い効果があります。サージカルマスクだけでは50%位ですがフェイスガードしていれば100%に近くなります。

それは凄いですね。

実は4月に右鼻が完全に詰まって夜も眠れなくなって困っていると言う方が受診されました。巨大なポリープ、鼻茸により右の鼻は完全に閉塞していました。患者さんに懇願されまして手術を行いました。先ほどお話ししました「耳鼻咽喉科外来における新型コロナウイルス感染症対策ガイド」に則して、タイベックスという宇宙服のような感染防護具を着て手術をしましたが、暑さと息苦しさで1時間はとても耐えられない感じでした。

ここまで伺いますと、新型コロナウイルス感染症をどのように捉えているかによって、その対応はそれぞれ違っていそうです。先生はどのように捉えていらっしゃいますか、お聞かせください。

若かりし頃、少し免疫学をかじっていたものですから、日本人の集団免疫獲得説には興味と期待を寄せています。疫学的検討からの推論ですが、日本では今年1月に弱毒型のコロナウイルスKタイプにより、液性免疫ではなく、細胞性免疫を獲得していて集団免疫のある日本人は、武漢型や欧米型と言う強毒型のGタイプの新型コロナウイルスに対して死亡率が低いという説です。しかし集団免疫を獲得していると言っても、一部の人は免疫がなく、また自分自身に集団免疫が獲得できている確証はありません。もし免疫を獲得していても、感染初期からIgGが髙値を示す再感染例にサイトカインストームという免疫反応の異常による重症例が認められていることから、コロナウイルスの暴露は絶対避けるべきと考えていますので、診療中は厳重な自己防護具の装着を止めることはありません。

なるほど、そうですよね。

ただし近隣でも感染蔓延地からの流入例はあってもコロナ患者さんの発生はありません。現在もあくまで診察した方が後になって新型コロナ陽性であったとわかっても、濃厚接触者ではないと判定され、2週間の診療停止とならないために、N95マスク、フェイスガードとガウンに手袋をして診療しています。介助スタッフもサージカルマスクにフェイスガードとガウンに手袋をして、梅雨から夏の間はとても暑かったですが、院内感染防止とクラスター発生防止に協力してもらっています。

ほぼ完全装備ですね。そうすると患者さんも安心して受診できますね。
ところでwithコロナによる生活スタイルの変化によって耳鼻科診療で変化したことはあるでしょうか?

まず耳に関してですが、リモートワークでイヤホンを長く使用している人の外耳道湿疹が増えています。またステイホームでいつも以上に耳ほじりをしてしまって外耳炎を悪化させてしまった方が増えています。先ほどあえて耳ほじりと申しましたが、ご本人達は耳掃除をしていると思い込んでいますが、耳ほじりをして耳垢を奥に押し込んでしまう結果となったり、皮膚を傷つけて外耳炎を作っていることになります。

ご自分の耳の中は決して見えませんので、見えないところをきれいに掃除はできないというわけですね。

そう言うことです。2017年になりますが、アメリカの耳鼻咽喉科学会は耳垢栓塞に関するエビデンスに基づく勧告を含む改訂ガイドラインを発表し、一般の人が行う耳掃除を止めるよう勧告しました。2019年静岡県耳鼻咽喉科地方部会も自宅での耳掃除を止めるようビデオ作成をして啓蒙しています。耳垢栓塞は成人の20人に1人、小児の10人に1人、高齢者や発達障害例では3人に1人以上に起こると試算しています。耳垢は自然に剥がれ落ちて排出されるものですが、耳垢栓塞となった場合は耳鼻科での耳掃除が推奨されます。

耳かき外傷による鼓膜損傷では最悪の場合、鼓膜穿孔だけではなく耳小骨離断や内耳損傷を併発して難聴、めまい、顔面神経麻痺などが起こり、緊急手術が必要となる場合もありますので絶対に避けるべきです。歩きながらの耳掻き使用や周囲にこどもがいるところでの耳掃除は止めましょう。

それはどういうことでしょう?

多くの実例がありますが、歩きながら耳掃除をしていて肘が柱などに当たると奥を強く傷つけることになりますし、耳掃除をしているところに周りにいた他のお子さんが急に飛び込んで来て事故となっています。

なるほど、一般の人が行う耳掃除は百害あって一利なしと言うことですね。

そうです。また、withコロナでマスクの装用が一般的になっていますが、マスクの効能は病原体から気道を守ってくれるだけではなく、優れた保湿効果があります。ただ長時間マスクを付けていると耳の後ろの皮膚がただれたり、不潔なマスクを連用すると、鼻や口の周りがただれて、ケアが悪いと伝染性膿痂疹、いわゆるとびひになってしまいします。治りの悪いとびひはMRSAという普通の抗菌薬の効かない耐性菌が原因となっている場合が多いですので、しっかり細菌検査をして治療に当たりましょう。

新型コロナウイルス感染症の嗅覚障害や味覚障害が話題になっていますがいかがでしょう。

従来から4種類のコロナウイルスが風邪の原因と言われていて、罹患すると嗅覚障害や味覚障害を起こし、匂いがわからない・味がわからないという症状が出ます。感冒が治癒した後も残る嗅覚障害を感冒後嗅覚障害と呼び、嗅覚障害患者さんの2割に当たると言われています。新型コロナウイルス感染でも鼻の中の粘膜が腫れ、匂いの元となる空気が鼻の中を流れなくなってしまうことが原因と考えられます。匂いを感じる細胞は嗅裂と言い嗅神経により脳と繋がっていて、目と鼻の間の奥に位置しますが、鼻の粘膜がウイルスに感染すると粘膜の腫れによって嗅裂まで空気が届かなくなって匂いを感じなくなります。

味覚障害はどうでしょう?

味覚に関しては二つのメカニズムが重なることによって障害が生じていると考えられています。一つ目は嗅覚障害に付随して生じる味覚障害です。健康なときでも鼻をつまんで食べ物を食べると味がわからなくなることがあります。このように匂いは味と深く関係していて、風味がわからなくなりますね。

風味とはよく言ったものですね!

その通りです。二つ目は新型コロナウイルス感染の特長によるものです。新型コロナウイルスはACE2受容体を持つ細胞に感染することがわかっています。ACE2受容体を持つ細胞は体中様々なところに存在しますが、口の中にも多く存在します。新型コロナウイルスが舌ベラのACE2受容体を持つ細胞に感染することによって、味を感知する“味蕾細胞”が破壊され、味がわかりにくくなるのではないかと考えられています。

嗅・味覚障害はどのくらいの頻度で現れるものなのでしょうか?

ヨーロッパのデータによれば、415人の新型コロナウイルス感染者に行ったアンケート調査の結果では、85.6%の人に嗅覚障害があり、88%の人に味覚障害が診られたと報告されています。日本の感染者での発症頻度はまだ明らかになっていませんが、ヨーロッパ同様に嗅覚障害も味覚障害も高い頻度で発症していると考えられています。

高齢の方は元々加齢により嗅覚や味覚の働きが落ちていて、障害に気づけない可能性があると考えられます。そのため嗅覚や味覚の健常な若い方の方が症状に敏感に気づくケースが多いと予測されます。

従来より副鼻腔炎や鼻茸、アレルギー性鼻炎、感冒あるいは亜鉛欠乏症などが原因で生じる嗅・味覚障害では徐々に嗅覚や味覚が低下していき、なんとなく匂いや味を感じにくくなったと自覚して病院を受診する患者さんが多いです。

しかし、新型コロナウイルス感染症による嗅・味覚障害は強い症状が急速に現れている場合が多いと言われています。

嗅覚障害を伴う新型コロナウイルス感染者のMRI検査では20例中19例で嗅裂の完全閉塞が認められ、1ヶ月後の嗅裂閉塞所見は20例中7例のみであったと報告されています。

予後はいかがでしょう。

ヨーロッパからの報告では、新型コロナウィルス感染症による嗅・味覚障害は発症から2週間前後には97%で自然治癒すると言われています。多くは自然に治るため過度に不安にならないようにしましょう。心配なときは耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。

なるほど。
では発熱についてはいかがでしょう?

発熱の原因となる代表的な耳鼻咽喉科疾患としては、風邪やインフルエンザ以外に耳では急性中耳炎や急性乳様突起炎、鼻では花粉症や急性副鼻腔炎、ノドでは急性咽頭炎・扁桃炎、扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍、喉頭浮腫や急性喉頭蓋炎等があります。私のかつて経験した発熱持続例では、急性喉頭蓋炎がA群β型の溶血性連鎖球菌、いわゆる溶連菌感染による扁桃周囲炎から波及し、かつインフルエンザAが陽性であったため入院できず外来点滴にて治療し治癒しました。発熱診療において鑑別診断と治療に注意が必要なケースでした。

先ほどの扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎を含んで救急外来において恐れられているキラー・ソア・スロートと呼ばれる危険な感染症があります。これは咽や喉の奥あるいは首の奥に膿瘍という“膿のたまり”ができる重症の感染症です。的確な診断と早期治療が重要となります。今までに経験したことがない咽の痛みを感じたら耳鼻咽喉科での的確な診断を仰いでください。最近ではCCDカメラ搭載の電子スコープで喉の奥を撮影することができるようになり、詳細な画像が得られますので、的確な診断に直結しています。このコロナ禍の最中ですが、電子スコープにより急性喉頭蓋炎や下咽頭癌を発見することができました。また耳鼻咽喉科医は咽だけでなく鼻姻腔からの検体採取にも日頃より慣れているため、上気道での検体採取には一日の長があります。

最後になりましたが、何かありましたらお話しください。

Withコロナに打ち勝つために、また日本人の死亡率が低い理由として、日本人の集団免疫獲得説をご紹介しましたが、最近新しい知見が報告されました。新型コロナウイルス感染者3,000人の遺伝子解析の結果から、保有していると重症化率が3倍となるネアンデルタール人由来の遺伝子断片を殆どの日本人は持っていないということがイギリスの世界的科学誌Nature電子版に報告されたことは朗報であると捉えています。